一戦の記憶と、その後 (監修・比護 忍)

約8年前に行われたヒットマスボクシング団体戦・決勝戦。2勝2敗で迎えた大将戦は、競技者としてだけでなく、現在あらためて競技を俯瞰する立場から振り返っても、多くの示唆を与えてくれる一戦でした。

当時のヒットマスボクシング団体戦は競技レベルがとくに高く、この頃すでに、後にプロボクサーとして活躍する有名選手や、全国・国際レベルで結果を残す選手たちに加え、元プロボクシング世界ランカーらも参加していました。現在振り返ると、本大会は当時から完成度の高い選手が揃い、後に大きく羽ばたいていく兆しが随所に見られる場であったと言えます。

対戦相手のチームは、当時すでに実戦形式での全日本ジュニアのトップに君臨していた現役最強クラスのチームであり、技術・戦術の両面において極めて完成度の高い布陣でした。

当時、国内無敗のスター選手を迎えた、決勝の大将戦

年齢や性別を超えて、純粋に技術・戦術・判断力で競い合える点こそがマスボクシング競技の大きな魅力ですが、本試合はその本質を象徴する一戦でもありました。

迎えた対戦相手は実戦ボクシングにおいて、当時すでに国内無敗の戦績を誇り、無敵と評されていた選手で、幼少期からTV・メディア出演(注1)などを通じて将来を嘱望されていた有名選手です。現在では国際大会でも優勝を重ねる、日本を代表する現役のスター選手として広く知られています。その知名度と実績ゆえ、会場の声援は終始相手側に集中し、試合環境としては完全にアウェーと言ってよい状況でした。歓声の量、熱量ともに圧倒的で、精神的な負荷も非常に大きい中での試合となりました。

注1:筆者の勤務先が当時提供していたTV番組『ミライ☆モンスター』においても特集として取り上げられておりました。

この角度から!極めてハイレベルな左の打撃(赤)
右アッパーで重心とガードを動かし、次の展開へ(青)

このレベルの選手になると、ガード、距離感、反応速度のいずれにもほとんど隙がなく、単純なカウンター狙いでは決定的なポイントを奪うことは困難です。そのため本試合では、一発のタイミング勝負に依存するのではなく、手数と前進圧を軸にプレッシャーをかけ、細かな連打による圧を積み重ねつつ、相手のリズムを崩していく戦術を選択しました。一見すると短時間でラフに手を出しているだけのようにも見えかねませんが、実際には打つタイミングや間合い、相手の反応を見極めたうえで、意図的にテンポと圧力をかけ続けることを狙ったものです。

わずかに生じた一瞬の隙を衝いた左(青)
ブレのないフォーム、ボディに鋭く突き刺さる右ジャブ(赤)

試合展開としては、前進圧を軸とした戦術を選択した結果、序盤にこちらが2度の反則を取られる苦しい立ち上がりとなりましたが、終盤には相手の反則によるポイントを得る場面もあり、最後まで流れの読めないシーソーゲームとなりました。その中で、ポイント管理と集中力を切らさず、最終的に僅差ながら勝利を収めることができました。

当時から完成度の高さが群を抜いていた(赤)

団体戦の決勝という舞台で、2対2の状況から迎える大将戦は、強烈な心理的プレッシャーがかかります。自分自身はもちろん、対戦相手もまた、想像を超える重圧の中で拳を交えていたはずです。試合が終わった瞬間、勝敗が決したにもかかわらず、「どちらに転んでもおかしくなかった」という感覚に包まれたことを、今でも鮮明に覚えています。それほどまでに拮抗した、競技人生の中でも特に印象深い一戦であり、これまで対戦してきた中でも最もレベルの高い相手の一人でした。

スター選手を迎え、紙一重の攻防

彼女は当時から、実戦ボクシングとマスボクシングという異なる競技環境の中で際立った完成度と勝負強さを備えており、限られた条件下でも高度な技術選択と判断を積み重ねられる稀有な選手でした。その資質は現在、世界の舞台においても、実戦的な強さとして明確な形となって輝いています。この歩みは、マスボクシングが単なる経験の場ではなく、将来のトップレベルへとつながる確かな土壌ともなり得ることを示す一例と言えるのではないでしょうか。

企画・取材:日本マスボクシング研究会

編集協力:Team Ringside Tokyo

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