小堀育子さんが拓く、新しいボクシングの地平

ボクシングは、誰のためのスポーツなのか。
その問いに、静かでありながら、しかし確かな答えを示している現場があります。
スポーツインストラクターの小堀育子さんが主宰するボクシングレッスンでは、年齢や経験、体力の差を超えて、女性たちが自分のペースでボクシングと向き合っています。
そこにあるのは、勝敗や強さだけを競う世界ではなく、「続けられること」「安心して挑戦できること」を大切にした、新しいボクシングの姿です。

インストラクターとして、そして競技者として、長年にわたりボクシングと向き合ってきた小堀育子さん。
彼女が現場で実践しているのは、フィットネスと競技の境界をなだらかに溶かし、初心者から高齢者までを包み込む、持続可能なボクシングのかたちでした。
現場に広がる、落ち着きのある活気
今回は、東村山スポーツボクシングジム(注1)を訪れ、小堀育子さんが主宰されているボクシングレッスンを取材させていただきました。小堀さんは、現在も大手スポーツクラブにおいて各種レッスンを担当されるなど、長年にわたり、ボクシングに限らず幅広い分野で指導活動を続けてこられた方です。
注1:小堀さん主宰のボクシングレッスンは、東村山スポーツボクシングジムだけでなく、さまざまな会場で実施されています。

この日のクラスは、参加者全員が女性。年齢層も幅広く、70代の生徒さんの姿も見られました。
リングやミットを前にしながらも、会場全体を包んでいたのは、張り詰めた緊張感ではありません。落ち着きのなかに、心地よい活気が静かに息づいている、そんな空気が印象的でした。
また、小堀さんのレッスンには、現役のプロボクシング女子世界王者や世界ランカーが講師として名を連ねることもあり、競技トップレベルの知見に触れられる場ともなっています。


年齢や経験の違いを超え、それぞれのペースで身体を動かしながら、集中した表情と自然な笑顔を浮かべ、リズムよくトレーニングに取り組まれている姿が、強く心に残りました。
「煩悩108回連打」大晦日の除夜の鐘にちなみ、108回のパンチを連続で繰り出すことで、1年間の煩悩やストレスを打ち払うトレーニングです。
安心感と楽しさを生む、指導の本質
小堀さんは、インストラクターとしての豊富な経験に加え、マスボクシングおよびエアボクシングの競技者としても、数々のタイトルを獲得してきた実績(注2)をお持ちです。
しかし、この場に広がっていた「安心感」と「楽しさ」の源泉は、そうした実績以上に、参加者一人ひとりを丸ごと受け止める懐の深さと、寄り添うような指導姿勢にあると感じました。
注2:全日本マスボクシング選手権大会2連覇、全国ヒットマスボクシング競技会優勝、エアボクシング5階級制覇など、数多くの実績を有しています。


年齢、体力、経験の差を前提としたうえで、「できること」を起点にレッスンが構成されているため、初めてボクシングに触れる方であっても、無理なく自然に場へ溶け込める環境が丁寧に整えられていました。


フィットネスとボクシングの高度な融合
特筆すべきは、フィットネスの専門性とボクシング指導が、高い次元で融合されている点です。
身体の使い方、リズム、呼吸、そして安全性への配慮。それらがレッスンの随所に無理なく組み込まれており、身体を動かしながら自然と、ボクシングの動作や感覚を体得できる構成となっていました。
80代の生徒さんが継続して参加されているという事実そのものが、このレッスンが備える安全性と再現性の高さを、何より端的に物語っています。
今回の生徒さんの中には、マスボクシングの大会である「ヒットマスボクシング大会」に出場を予定されている方も数名いらっしゃいました。マスボクシングはカテゴリー別の競技であるため、どなたでも安心して挑戦できる競技です。
「強さ」だけを目的にしない価値設計
「強くなる」ことだけを目的としない。しかし、確かな技術と自信は、着実に身についていく。
その絶妙なバランスこそが、年齢や経験を問わず、参加者の表情ににじむ自然な笑顔へとつながっているのだと感じました。


ボクシングは、決して一部の人のためだけの競技ではありません。こうした現場を通じて、多様な背景を持つ人々が自分らしく挑戦し、成長を実感できるスポーツとしての可能性が、確かに広がっていることを実感しました。
独自の歩み
インストラクターとして小堀さんがボクシングに本格的に取り組まれた背景には、ボクシング系エクササイズのブラッシュアップという、明確な目的があったと伺いました。
音楽に合わせてボクシングの動きを自然に取り入れながら、あくまでフィットネスとして成立する形を追求する。その過程で、ボクシング系エクササイズという分野において、独自の道を切り拓いてこられた存在です。
一見するとシンプルに思えるこの融合は、実際には決して容易なものではありません。



たとえボクシングで確かな実績を残した選手であっても、フィットネスとボクシングを高い次元で融合させ、さらにそれを安全性と再現性を備えた形で、幅広い層に届けることは、極めて高度な取り組みと言えるでしょう。
マスボクシング普及の視点から
フィットネスのプロとしての確かな土台を持ちながら、そこにボクシングを無理なく融合させ、初心者から高齢者、経験者までを包み込む。
こうした取り組みは、マスボクシングが「誰もが参加できる生涯スポーツ」として社会に根づいていくための、重要な実践例だと感じました。
競技志向への入り口として、あるいは健康づくりの延長線上として、無理なくボクシングに触れられる環境が用意されていること。その積み重ねが、競技人口の拡大と、ボクシング文化の持続的な発展につながっていくのではないでしょうか。
小堀さんが実践されている取り組みは、マスボクシング普及において、今後の方向性を示す重要なモデルの一つと言えるでしょう。
東村山スポーツボクシングジムにて(東京都東村山市)

レパード玉熊ボクシングジム日記より(東京都千代田区)

小堀育子さんからのメッセージ

東村山スポーツボクシングジム所属の倉村千恵美さんは、「全日本マスボクシング選手権大会」シルバーエイジ部門において、4連覇を達成されています。年齢にとらわれることなく挑戦を続けるその姿勢は、多くの方に勇気を与えています。
倉村さんは、小堀さん、比護ともに、ヒットマスボクシング時代から活動を共にし、長年にわたり交流を重ねてきました。皆さんもぜひご自身のペースで、新たな一歩に挑戦してみてください。
企画・取材:日本マスボクシング研究会
編集協力:Team Ringside Tokyo

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